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Do All Epistemic Values Derive From the Value of Truth?

Do All Epistemic Values Derive From the Value of Truth?

2023年度哲学若手研究者フォーラム研究発表

Sotaro Tanigawa

July 15, 2023
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Transcript

  1. すべての認識的価値は真理の価
    値に由来するか?
    谷川綜太郎(千葉大学)
    哲学若手研究者フォーラム研究発表(2023.7.16

    https://sotanigawa.github.io/

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  2. 用語の導入
    まずは、タイトルの「由来する(派生する)」
    という言葉遣いについて説明する。
    念頭に置いているのは、基本的価値/派生的価
    値という区別(Sosa 2007
    )である。

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  3. 用語の導入
    たとえば、美味しいコーヒーに価値があると考
    える人がたくさんいるため、われわれは美味し
    いコーヒーの生産を基本的価値とする評価の領
    域を生み出した。
    この評価の領域において、美味しいコーヒーを
    効率良く生産する施設には価値がある。これ
    は、この評価の領域において、美味しいコーヒ
    ーの生産に価値があることのおかげである(=
    そこからの派生的価値である)。

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  4. 用語の導入
    基本的価値:
    価値V
    が評価の領域D
    における基本的
    価値である iff V
    がD
    に関連する価値であり、その
    ことは他の何かがD
    に関連する価値であることの
    おかげでない。
    派生的価値:
    価値V
    が評価の領域D
    における派生的
    価値である iff V
    がD
    に関連する価値であり、その
    ことは他の何かがD
    に関連する価値であることの
    おかげである。

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  5. テーマの説明
    認識論=われわれの実践を認識的な観点から評
    価するために生み出された巨大な評価の領域
    (だと解釈できる)。
    では、この(認識論という)評価の領域におけ
    る基本的価値は何か? これが本発表を動機付け
    る問いである。

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  6. テーマの説明
    この問いに対する20
    世紀後半の標準的立場は、
    真理の価値一元主義だと考えて間違いないと思
    われる。
    真理の価値一元主義:
    認識論における基本的価値
    は真理の価値だけであるという立場。

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  7. 本発表について
    目標と方法:
    真理の価値一元主義を退け、多元主
    義を支持する。そのために、少なくとも理解の
    価値が真理の価値に由来しないことを示す。
    内容:
    1.
    真理の価値一元主義
    2.
    多元主義へ向けて
    3.
    理解の価値

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  8. 1.
    真理の価値一元主義
    1.
    基本的な考え方
    2.
    知識の価値について
    3.
    まとめ

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  9. 1-1.
    基本的な考え方
    真理の価値一元主義の考え方を示すためにしば
    しば引用されるのが、BonJour
    (1985
    )や
    Goldman
    (1986
    )。
    彼らの立場を整理すると:
    認識的実践の究極的目標は真理である。
    したがって、認識論におけるあらゆる評価は、
    それがどれだけ真理を導くかという観点から
    行われる必要がある。

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  10. 1-1.
    基本的な考え方
    「われわれの認知的努力の目標は明らかに真理
    である。」(BonJour 1985

    「中心的な認識論的評価概念は〔…
    〕その究極
    的な目標として真理を呼び出す。したがって、認
    識的な手順や過程、あるいは取り決めの評価
    は、客観的な評価基準である真理誘導性に訴え
    なければならない。」(Goldman 1986

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  11. 1-1.
    基本的な考え方
    認識的目標の定式化としておそらく最も有名な
    「真なる信念を最大化し、偽なる信念を最小化
    すること」(Alston 2005
    )という定式化も、真理
    の価値一元主義的な考えに基づいている。

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  12. 1-1.
    基本的な考え方
    しかし、認識論における基本的価値は真理では
    なく知識なのではないか?
    以下、真理の価値一元主義者がこの点をどう考
    えているかを明らかにする。

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  13. 1-2.
    知識の価値について
    そもそも知識にはどのような価値があるか?
    おそらく、われわれは知識に対して少なくとも
    二種類の価値があると考えている。それは、道
    具的価値と最終的価値である。

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  14. 1-2.
    知識の価値について
    道具的価値:
    対象O
    に道具的価値がある iff O
    がわ
    れわれの欲求する対象を手に入れる手段であ
    り、そのことにより価値を持つ。
    例:
    通貨、薬
    最終的価値:
    対象O
    に最終的価値がある iff O
    自体
    がわれわれの欲求する対象であり、そのことによ
    り価値を持つ。
    例:
    健康、幸福

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  15. 1-2.
    知識の価値について
    知識の道具的価値:
    (多くの場合)知識はわれわ
    れの行為を成功させ、目的を達成する手段とな
    るため価値がある。
    例:
    東京への行き方についての知識は、東京へ
    行くという行為を成功させ、目的(たとえ
    ば、大会に参加すること)を達成する手段と
    なるため価値がある。

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  16. 1-2.
    知識の価値について
    知識の最終的価値:
    (多くの場合)われわれが知
    識自体を欲求していることは明らかであるため
    価値がある。
    どうでも良い知識(たとえば、このスライド
    に出てくる数字の合計についての知識)や知
    りたくない知識(たとえば、恐ろしい出来事
    についての知識)もあるかもしれないが、今
    回はあまり考慮しない。

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  17. 1-2.
    知識の価値について
    このように、知識には道具的価値や最終的価値
    があると考えることができる。
    しかし、真理の価値一元主義者によると、これ
    らの価値は、いずれも真理(真なる信念)の価
    値に由来すると考えられる。それはなぜか?

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  18. 1-2.
    知識の価値について
    (道具的価値について)東京へ行くという行為
    を成功させるためには、東京への行き方につい
    ての知識を持っていなくても、東京への行き方に
    ついての真なる信念を持っていれば良い。
    (最終的価値について)われわれが欲求している
    ものは、結局のところ知識ではなく真理であ
    る、と言ったとしても差し支えないだろう。

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  19. 1-2.
    知識の価値について
    このように、知識の価値は真理(真なる信念)
    の価値に由来すると考える理由がある。
    しかし、知識を正当化された真なる信念だと考
    えるなら、正当化の価値はどこへ行ったのか?

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  20. 1-2.
    知識の価値について
    正当化は評価的概念なので、真理の価値一元主
    義の考え方からすると、真理からの派生的価値
    を持つに過ぎない。
    つまり、正当化は真理を得る手段としてのみ価
    値を持つ(BonJour 1985
    )。

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  21. 1-2.
    知識の価値について
    「正当化の基本的役割は真理への手段であり、
    〔…
    〕もし仮に認識的正当化が真理に結び付か
    ないのなら、認識的正当化を得ることが真理を
    得る可能性を実質的に高めないのなら、認識的
    正当化は主要な認知的目標とは無関係であり、
    その価値は疑わしくなるだろう。」(BonJour
    1985

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  22. 1-3.
    まとめ
    真理の価値一元主義では、真理が認識論におけ
    る究極的目標であり、その他のものは、それが
    どれだけ真理を導くかという観点から評価され
    る必要がある。(したがって、真理が認識論に
    おける唯一の基本的価値であり、その他のもの
    は真理からの派生的価値を持つに過ぎない。)

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  23. 1-3.
    まとめ
    真理の価値一元主義を支持する強力な理由の一
    つは、われわれが知識の価値だと考えているもの
    の多くは、真理(真なる信念)の価値として十
    分に説明可能である、という点にある。
    次のセクションでは、真理の価値一元主義の代
    替として、多元主義をとる方法を考える。

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  24. 2.
    多元主義へ向けて
    1.
    多元主義とは?
    2.
    議論の選択肢
    3.
    知識に基づく議論
    4.
    知識に基づかない議論
    5.
    まとめ

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  25. 2-1.
    多元主義とは?
    多元主義:
    認識論における基本的価値は複数存在
    するという立場。
    近年は多元主義を支持する議論も増えている。
    多元主義を支持するためには、どのような議論
    を選択できるか?

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  26. 2-2.
    議論の選択肢
    1.
    知識に基づく議論:
    知識(や、その構成要素)に
    着目し、その価値を認識論における基本的価値
    だと主張する。
    2.
    知識に基づかない議論:
    知識(や、その構成要
    素)以外の何かに着目し、その価値を認識論に
    おける基本的価値だと主張する。
    以下、順に確認する。

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  27. 2-3.
    知識に基づく議論
    知識に基づく議論(1
    ):
    メノン問題(プラトン
    の『メノン』における有名な問い)の直観的妥
    当性に訴える(Matheson 2011
    )。
    知識に基づく議論(2
    ):
    新悪霊問題(オリジナ
    ルバージョンはLehrer and Cohen 1983
    で、信頼性
    主義批判に用いられている)に訴える(Madison
    2017
    )。

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  28. 2-3.
    知識に基づく議論
    メノン問題:
    なぜ知識は真なる信念よりも価値が
    あるか?(=なぜわれわれは真なる信念よりも
    知識を欲求するか?)という問題。
    完全な知識理論はメノン問題に答える必要があ
    ると考えられている。
    しかし、真理の価値一元主義をとる限り、メノ
    ン問題にうまく答えられない。
    詳しい論証はMatheson
    (2011
    )へ。

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  29. 2-3.
    知識に基づく議論
    新悪霊問題(認識的価値バージョン):
    デカルト
    の悪霊、あるいは水槽の中の脳(BIV
    )状況を仮
    定する。主体S
    は悪霊に欺かれているため(ある
    いは水槽の中の脳であるため)、外界について
    の知識を得ることができない。しかし、S
    は自分
    に与えられた経験に照らして正しく推論し、正
    当化された信念を形成している。S
    の信念は知識
    に満たないにもかかわらず、評価に値するもの
    ではないか?

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  30. 2-3.
    知識に基づく議論
    新悪霊問題の思考実験は、(知識に満たない)
    正当化された偽なる信念にも何らかの価値があ
    ることを示している。
    同じ(悪霊に欺かれている)状況下で優れた
    認知能力を発揮する人とそうでない人を比較
    した場合、われわれは前者を評価するだろう
    (Sosa 2003
    )。

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  31. 2-4.
    知識に基づかない議論
    以上、知識に基づく議論を簡単に見てきたが、
    知識の価値が真理の価値に由来しないことを示
    す、という方法に拘る必要はない。
    認識論を、知識に限定されない様々な認知的成
    功を研究する分野、だと捉えるなら(Kvanvig
    2005
    )、そのような認知的成功のうち、真理の
    価値に由来しない価値を持つものが(少なくと
    も一つ)存在する、と示せれば十分である。

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  32. 2-4.
    知識に基づかない議論
    「認識論はしばしば知識の理論だと考えられて
    いるが、その概念は狭すぎる。〔…
    〕認識論は
    われわれの認知的努力のある側面を研究するも
    のである。特に、成功した認知を調査すること
    が目的である。その範囲には、真なる信念や意
    見、〔…
    〕知識、理解、理論知、〔…
    〕などの
    様々な認知的成功が含まれている。」(Kvanvig
    2005

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  33. 2-4.
    知識に基づかない議論
    このように、(引用ではかなり省略したが、)
    クヴァンヴィグは多くの重要な認知的成功のリ
    ストを提示している。
    しかし、具体的にはどの認知的成功が、どのよ
    うな(真理の価値に由来しない)価値を持つの
    か?

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  34. 2-4.
    知識に基づかない議論
    クヴァンヴィグのリストに含まれているものの
    うち、現在、比較的議論が進んでいるものは
    「理解(Understanding
    )」である。
    本発表でも、理解に焦点を当てて、さらに議論
    を追跡する。

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  35. 2-5.
    まとめ
    近年は多元主義を支持する議論も増えている。
    議論は大きく分けて二種類ある。知識の価値に
    着目する議論(知識に基づく議論)と、知識の
    価値以外の価値に着目する議論(知識に基づか
    ない議論)である。
    本発表では、知識に基づかない議論として、理
    解の価値に焦点を当てる議論を追跡する。
    次のセクションでは、理解の価値が真理の価値
    に由来しないことを示す。

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  36. 3.
    理解の価値
    1.
    方針
    2.
    ザグゼブスキの見解
    3.
    クヴァンヴィグの見解
    4.
    操作主義
    5.
    説明主義
    6.
    まとめ

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  37. 3-1.
    方針
    理解の価値についてのザグゼブスキ(Zagzebski
    2001
    )の見解とクヴァンヴィグ(Kvanvig 2003

    の見解を基本的な参照点として、理解の価値が
    真理の価値に由来しないことを示す。
    特に、知識と理解の違いに焦点を当てながら議
    論を進める。

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  38. 3-2.
    ザグゼブスキの見解
    ザグゼブスキによると、理解の価値は、理解の
    性質である透明性(自分の理解についての反省
    的知識を伴うという性質)の価値に由来する。
    「自分が知っていることを知らずに知ること
    は可能だが、自分が理解していることを理解
    せずに理解することは不可能である。」
    (Zagzebski 2001

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  39. 3-2.
    ザグゼブスキの見解
    知識(不透明)と理解(透明)の違いの例:
    実際にヒヨコの雌雄を鑑別できれば、ヒヨコ
    の雌雄鑑別方法を知っていると言える。
    実際にヒヨコの雌雄を鑑別できるだけでな
    く、自分がなぜ鑑別できるのかを知っていな
    ければ、ヒヨコの雌雄鑑別方法を理解してい
    るとは言えない。
    鑑別根拠がわからず鑑別できるよりも、鑑別根
    拠がわかって鑑別できるほうが良い。

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  40. 3-2.
    ザグゼブスキの見解
    このように、透明性の価値とは、「信じる理由
    にアクセスできる」という、内在主義者が追い
    求めてきた種類の価値である。
    理解に着目することで、知識についての内在主
    義/外在主義論争を一旦保留して、このような
    (透明性の)価値を支持できる可能性がある。
    しかし、理解についても同様の(外在主義者か
    らの)反論がある。

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  41. 3-2.
    ザグゼブスキの見解
    理解の透明性に対する反論:
    透明でない理解=動
    物的理解もある(Grimm 2016
    )。
    動物的理解:
    メタ認知能力を持たない(=反省的
    知識を持てない)乳児や動物などの存在者でも
    持てる種類の理解。

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  42. 3-2.
    ザグゼブスキの見解
    動物的理解の詳細と是非、および、理解につい
    ての内在主義と外在主義については、以前(谷
    川 2023
    )議論したので、そちらを参照された
    い。
    今回は、次に見るクヴァンヴィグの見解を中心
    的に議論する。

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  43. 3-3.
    クヴァンヴィグの見解
    クヴァンヴィグは、知識と理解を次のように区
    別する。
    知識と理解は、いずれも真なる信念を要求す
    る(=叙実性)。
    叙実性の条件を満たせば、知識の焦点は(信
    念と真理の間の)非偶然的関係に、理解の焦
    点は(信念と信念の間の)整合的関係をつか
    むことにある。

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  44. 3-3.
    クヴァンヴィグの見解
    知識と理解の比較:
    関東地方の歴史を知っている iff
    関東地方の歴
    史についての事実を非偶然的な仕方で(たと
    えば信頼できる本を参照するなどして)信じ
    ている。
    関東地方の歴史を理解している iff
    関東地方の
    歴史についての事実を信じており、かつ事実間
    の整合的関係をつかんでいる。

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  45. 3-3.
    クヴァンヴィグの見解
    つまり、理解の構成要素は「真理を信じている
    こと」と「信念間の整合的関係をつかんでいる
    こと」の二つであり、とりわけ後者が理解に特
    徴的な要素である。
    クヴァンヴィグは、理解の価値は主にこの二つ
    の要素に由来すると考えており、前者は真理の
    価値に由来する価値だが、後者はそれを超えて
    いる、と続ける。

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  46. 3-3.
    クヴァンヴィグの見解
    「われわれはこうして、理解の価値についての次
    のような説明を得られる。真理を超えた、理解
    に関連する特徴的な要素は、整合的関係をつか
    んでいること、という観点から最もよく理解さ
    れる。」(Kvanvig 2003

    しかし、この特徴付けには疑問が残る。

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  47. 3-3.
    クヴァンヴィグの見解
    疑問(1
    ):
    「つかむ(grasp
    )」という心的行為
    は十分に特徴付けられているか? 特に、「信じ
    る(believe
    )」とはどのように区別されるか?
    疑問(2
    ):
    つかまれる対象は何か? 命題か、そ
    れとも他の何かか?

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  48. 3-3.
    クヴァンヴィグの見解
    たとえば、「信念間の関係をつかむ」というこ
    とが、「信念間の関係についての真なる命題を
    信じる」ということの言い換えなら、結局のと
    ころ、理解は真なる信念の集合に過ぎず、そこ
    には真理を超えた価値もないだろう。
    したがって、そうではない、ということを説明
    する必要がある。

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  49. 3-3.
    クヴァンヴィグの見解
    ここで利用可能な二つのアプローチ(Kelp 2015
    の分類に基づく)がある。
    操作主義:
    理解の中心的特徴を操作や推論に求
    める。
    説明主義:
    理解の中心的特徴を説明に求める。
    以下、それぞれの立場に沿って、クヴァンヴィ
    グの説明をさらに洗練させることを試みる。

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  50. 3-4.
    操作主義
    代表的な操作主義理論はURM
    (=表象操作可能
    性としての理解、Wilkenfeld 2013
    )である。
    URM:
    文脈C
    において思考者T
    が対象O
    を理解して
    いる iff T
    がO
    の表象R
    を持っており、C
    において顕
    著な反事実的状況において、T
    がそれを修正して
    R′
    を作り出すことができる。ここで、R′
    はO
    の表
    象であり、R′
    を持つことで、(C
    に関連する基準
    に従った)有効な推論や操作が可能になる。

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  51. 3-4.
    操作主義
    たとえば、一階述語論理の完全性の証明を理解
    している人は、その証明の表象を持っており、そ
    れを修正して別の表象を作り出すことができ
    る。そのような表象を作り出すことで、証明の
    誤りを修正したり、他の論理の完全性を証明し
    たりできる。

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  52. 3-4.
    操作主義
    URM
    の定式化はやや複雑だが、要点は、理解す
    ることで、対象に関する操作や推論が可能にな
    る、という点にある。
    操作や推論に重点を置く考えは、Grimm
    (2011,
    2016
    )にも見られる。

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  53. 3-4.
    操作主義
    「したがって、構造を「つかむこと」は、様相
    的な認識、ないし能力のようなものを発揮させ
    るように思われる。それは、物事がどうなって
    いるかを記録する能力だけでなく、システムの
    ある要素が何らかの仕方で異なっていたとき
    に、それが他の要素にどう作用するかを予測す
    る能力である。」(Grimm 2011

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  54. 3-4.
    操作主義
    このように、対象の構造をつかむことで、対象
    に関する操作や推論が可能になり、それによっ
    て、対象に関する予測や制御も可能になる。
    そして、われわれは実用的な観点から予測や制御
    に関心を持っている。つまり、「理解の特別な
    価値は、世界がどのように展開するのかを予測
    し、場合によっては制御することに対するわれわ
    れの自然な関心に由来する」(Grimm 2016
    )。

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  55. 3-5.
    説明主義
    さて、理解は予測や制御だけでなく、説明とも
    密接な関係があるように思われる。
    つまり、理解するためには真理を信じるだけで
    なく、適切な説明をつかむ必要がある、という
    直観がある。
    しかし、ここでも懸念がある。「説明をつか
    む」ということは、「説明的な命題を知る」と
    いうことと何が違うのか、という懸念である。

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  56. 3-5.
    説明主義
    説明を持つことが知識を持つことではないと言
    える理由の一つは、適切な説明が必ずしも真で
    はない、という点にある。
    この点については、「適切な嘘」(Elgin 2007

    という考えが参考になる。

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  57. 3-5.
    説明主義
    適切な嘘:
    それ自体は偽でありながら、事実の細
    部へのアクセスを可能にするもの。
    たとえば、実在する気体の振る舞いは、理想
    気体の状態方程式を用いるとうまく説明でき
    る。しかし、理想気体なるものは現実に存在
    しないため、この方程式自体は偽である。

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  58. 3-5.
    説明主義
    理解の叙実性や適切な嘘に関しては様々な議論
    がある。今回は省略するが、以前(谷川 2021

    議論したものは参考になると思われる。ただ
    し、そこでは2010
    年代以降の議論を追えていな
    い。
    説明の非事実性を支持する他の例として、今回
    は説明可能なAI
    =XAI
    という例も挙げておきた
    い。

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  59. 3-5.
    説明主義
    XAI:
    近年は機械学習モデルを用いて対象を予測し
    たり制御したりすることが増えている。そのよ
    うなモデルはしばしば人間が理解できないほど
    巨大な数のパラメーターを持っているが、それ
    でも社会的にはアカウンタビリティを果たすこ
    とが求められている。そこで、人間に理解可能
    なレベルに落とした(厳密に言えば正確ではな
    い)説明を生成する技術(=XAI
    )が開発されて
    いる。

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  60. 3-5.
    説明主義
    以上のことからわかることは、われわれが説明
    を求める理由は、われわれが真理を求める理由
    からは独立している、ということである。(た
    とえそれが偽であったとしても、われわれは説明
    を求める。)
    したがって、説明的関係をつかむことの価値
    は、説明を求めるわれわれの関心に由来し、そ
    れは真理の価値に由来しない。

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  61. 3-6.
    まとめ
    理解概念は、真理の価値に由来しない認識的価
    値を考えるうえで、多くのヒントを与える。
    具体的には、透明性の価値や、予測や制御、説
    明などに対するわれわれの関心(これらは真理
    に対するわれわれの関心とは異なる)に由来す
    る価値がある。
    このような価値は、基本的な認識的価値として
    カウントされるに値する(というのが今回の私
    の主張である)。

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  62. 3-6.
    まとめ
    なお、理解の価値についての議論は他にもあ
    る。今回扱わなかったもののうち、よく参照さ
    れるものは以下のとおり:
    理解の価値はそれが認知的達成であることに
    由来するという議論(Pritchard 2010
    )。
    理解の価値は好奇心の充足に由来するという
    議論(Kvanvig 2013
    )。

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  63. 参考文献
    W. Alston (2005). Beyond Justification. Cornell University Press.
    L. BonJour (1985). The Structure of Empirical Knowledge. Harvard University Press.
    C. Elgin (2007). Understanding and the Facts. Philosophical Studies, 132: 33–42.
    A. Goldman (1986). Epistemology and Cognition. Harvard University Press.
    S. Grimm (2011). Understanding. The Routledge Companion to Epistemology. Routledge.
    S. Grimm (2016). Understanding and Transparency. Explaining Understanding. Routledge.
    C. Kelp (2015). Understanding Phenomena. Synthese, 192 (12): 3799–3816.
    J. Kvanvig (2003). The Value of Knowledge and the Pursuit of Understanding. Cambridge
    University Press.
    J. Kvanvig (2005). Truth is Not the Primary Epistemic Goal. Contemporary Debates in
    Epistemology. Blackwell.
    J. Kvanvig (2013). Curiosity and the Response-Dependent Special Value of
    Understanding. Knowledge, Virtue and Action. Routledge.
    K. Lehrer and S. Cohen (1983). Justification, Truth, and Coherence. Synthese, 55 (2): 191–
    207.

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  64. 参考文献
    B. Madison (2017). Epistemic Value and the New Evil Demon. Pacific Philosophical
    Quarterly, 98 (1): 89–107.
    D. Matheson (2011). How To Be an Epistemic Value Pluralist. Dialogue, 50 (2): 391–405.
    D. Pritchard (2010). Knowledge and Understanding. The Nature and Value of Knowledge.
    Oxford University Press.
    E. Sosa (2003). The Place of Truth in Epistemology. Intellectual Virtue. Oxford University
    Press.
    E. Sosa (2007). A Virtue Epistemology. Oxford University Press.
    D. Wilkenfeld (2013). Understanding As Representation Manipulability. Synthese, 190 (6):
    997–1016.
    L. Zagzebski (2001). Recovering Understanding. Knowledge, Truth, and Duty. Oxford
    University Press.
    谷川綜太郎 (2021).
    認識論における理解の叙実性について.
    千葉大学大学院人文公共
    学府研究プロジェクト報告書, 359: 40–49.
    谷川綜太郎 (2023).
    理解についての内在主義と外在主義.
    新進研究者 Research Notes,
    6.

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